日本の外国人受け入れ政策は、人手不足の解消と国際貢献という二つの大きな側面を持ちながら、複数の在留資格・制度によって構成されています。特に「特定技能制度」「技能実習制度(現行制度)」「難民受け入れ」は、目的や運用、対象となる外国人の立場に違いがあります。
1. 技能実習制度(現行制度)と育成制度
技能実習制度は、開発途上地域等への技能移転を通じた国際貢献を目的として、1993年に創設されました。
- 目的と建前: 外国人が日本の技能・技術・知識を修得し、帰国後に母国の経済発展に役立てること。人材確保の手段ではないとされています。
- 在留期間: 最長5年間。
- 運用上の課題: 国際貢献という建前と、実質的な労働力確保の手段となっている実態との乖離、実習生の転籍(転職)の原則不許可による人権侵害や労働条件の問題が長年指摘されてきました。
- 育成制度への移行: こうした課題を踏まえ、技能実習制度は廃止され、今後は**「育成就労制度」という新たな制度に変わることが決定されています。この新制度は、人材の育成と確保を目的とし、特定技能1号への円滑な移行を目指す育成制度**としての役割が明確になります。
技能実習制度の目的と建前 - 技能実習制度は、「国際貢献」を目的としています。開発途上国等の外国人を日本に受け入れ、日本の進んだ技能、技術又は知識を修得させ、帰国後に母国の経済発展に役立ててもらうことを建前としています。
- 在留資格名: 「技能実習」
- 在留期間: 最長5年間(段階的に移行)
- 受け入れ分野: 87職種159作業(2024年4月時点)
- 転職の制限: 原則として認められていません。実習生は入国後に配属された企業に縛られ、労働条件が悪くても途中で辞めることが非常に困難でした。
- 課題:
労働力補完としての利用: 建前の「国際貢献」とは裏腹に、実態としては日本国内の人手不足を補う安価な労働力として利用されてきました。
人権侵害・失踪: 転職の自由がないことや、送出機関への多額の手数料、低賃金などから、実習生の人権侵害や失踪が問題化していました。
2. 特定技能制度
特定技能制度は、国内の深刻な人手不足に対応するため、即戦力となる外国人材を期限付きで受け入れることを目的に2019年に創設されました。
- 目的: 人手不足が特に深刻な特定産業分野(介護、建設、農業など)での人材確保。
- 対象者: 一定の専門性・技能(技能試験)と日本語能力(日本語能力試験N4相当)を証明できる外国人。
- 在留資格の種類:
- 特定技能1号: 最長5年間。家族の帯同は原則認められません。
- 特定技能2号: 熟練した技能を持つことが要件で、在留期間の上限がなく、要件を満たせば家族の帯同も認められます。実質的な永住にもつながるキャリアパスです。
- 特徴: 労働者として雇用され、日本人と同等以上の報酬が保証されます。また、同一分野内での転職が可能です(技能実習制度との大きな違い)。
3. 難民受け入れ政策
日本の難民受け入れ政策は、国際的な人道支援と国際法上の義務に基づくものです。
- 根拠: 難民条約および**出入国管理及び難民認定法(入管法)**に基づき、迫害を受ける恐れのある外国人を保護します。
- 現状の課題: 難民認定基準の厳格さや、申請から認定までの長期化が国際的に指摘されてきました。認定率は非常に低水準にあります。
- 補完的保護対象者: 難民条約上の難民には該当しないものの、本国に帰れば生命または身体に重大な危害を受ける恐れがある人を保護する**「補完的保護対象者」**制度も創設されました(改正入管法)。
- 人道的な配慮: 難民申請中であっても、人道的な配慮から在留特別許可を与えるなど、個別の事情に応じた対応も行われますが、その運用には議論があります。
4. 全般的な特徴と課題
日本の外国人受け入れ政策全般としては、「高度人材」を優遇しつつ、特定の低賃金・人手不足分野を限定的な制度(技能実習や特定技能)で支えるという二層構造が特徴です。
- 課題:
- 人権保護と労働環境: 技能実習制度の廃止(育成就労制度への移行)は、人権問題への対応を迫られた結果ですが、新制度の実効性が問われています。特定技能制度でも、転職の自由が認められたとはいえ、支援体制や賃金の面で課題は残ります。
- 社会統合: 外国人の増加に伴い、日本語教育や医療、子どもの教育など、多文化共生社会を実現するための社会統合政策の強化が喫緊の課題となっています。
- 難民保護: 難民認定手続きの公平性・迅速性の確保や、難民申請者の生活基盤の支援強化が国際社会から求められています。
参考 法務省
追伸 外国人育成制度とは?
外国人育成制度とは、2027年に導入予定の「育成就労制度」のことを指します。これは、これまで存在した「技能実習制度」に代わり、外国人材の育成と確保を目的とした新しい制度です。
育成就労制度の主な特徴
人材の育成と確保
- 人手不足が深刻な建設や農業などの分野において、外国人材を約3年間かけて、より専門的な「特定技能」の水準まで育成する仕組みです。
- 外国人労働者は、日本で働きながら実務を通じてスキルと日本語能力を習得し、将来的なキャリアアップを目指せます。
- 一定の基準を満たせば、長期就労が可能な「特定技能」の在留資格へ移行できる、明確なキャリアパスが提供されます。
労働者の保護
- 従来の制度で問題となっていた、外国人労働者の人権侵害を防ぐため、保護体制が強化されています。
- 特に重要な改善点として、一定の条件を満たせば、外国人の意思で転職(転籍)ができるようになります。
企業側のメリット
- 外国人材が定着しやすくなるため、長期的な人材確保が見込みやすくなります。
- 一定の日本語能力を持つ人材を雇用できるようになるため、コミュニケーションが円滑になります。
技能実習制度との主な違い
目的
- 育成就労制度: 日本の人材不足分野における人材の育成と確保。
- 技能実習制度: 国際貢献のため、発展途上国への技能移転。
転籍
- 育成就労制度: 一定の条件を満たせば可能。
- 技能実習制度: 原則として認められていなかった。
在留期間
- 育成就労制度: 原則3年間。
- 技能実習制度: 最長5年間(段階的)。
日本語能力
- 育成就労制度: 一定の日本語能力が必須要件となる見込み。
- 技能実習制度: 必須要件ではなかった
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