1.第三者委員会の良かった点
第三者委員会の報告書には、評価できる点もあります。
- 七項目の事実関係を整理したこと
文書に記載された七項目について調査を行い、それぞれの事実関係を整理・確認したことは、問題の全体像を把握するうえで役に立ちました。 - 法律との突き合わせを行ったこと
公益通報者保護法などの関係法令を取り上げ、具体的な事実と法律を照らし合わせて検討した点は評価できます。 - 第三者委員会の役割や法的な立ち位置を理解する材料になったこと
第三者委員会が何を調査し、どのような観点から判断するのかを理解する機会になりました。 - 公益通報者保護法の仕組みを理解する素材になったこと
委員会の結論に賛成できるかどうかは別として、公益通報の要件や通報者保護の仕組みについて考えるきっかけにはなりました。 - 今後の議論のたたき台になったこと
報告書によって論点が整理されたことで、公益通報の要件や内部情報の管理、行政組織の対応について議論するための材料ができました。
2.第三者委員会の批判されるべき点
① 外部公益通報における通報時点の「相当の理由」を極めて広く解釈している
最も問題だと考えるのは、公益通報者保護法における通報時点の相当の理由、いわゆる真実相当性の判断です。
公益通報者保護法3条

たいして、報告書131ページでは法2条3項に該当する通報対象事実の記載があれば、法3条以下の保護要件について、社会通念上必要がないかのような解釈が示されています。
第三者委員会P.131

しかし、公益通報に該当することと、外部通報によって法的保護を受けられることは別の問題です。特に3号通報では、通報対象事実について相当の理由があることに加え、法定の追加要件も満たす必要があります。
消費者庁も、単なる憶測や伝聞ではなく、通報内容を裏付ける内部資料や信用性の高い関係者の供述などを相当の理由の例として挙げています。また、後日紛争になった場合には、通報者側が相当の理由を立証する必要があるとの見解を示しています。
参考 消費庁HPから

ところが、報告書は131ページ以降、委員会自身が後から行った調査で判明した事実や県庁情報提供者の存在などを根拠に、真実相当性を認めています。
ここで重要なのは、委員会の調査によって後から判明した事実と、通報者が通報した時点で実際に把握していた情報は別物であるということです。
通報者が当時どのような情報を持ち、どの程度の根拠をもって通報したのかを確認せず、後日の調査結果をもって通報時点の相当の理由を認めるのであれば、法律が求める要件を実質的に緩めることになります。
この解釈では、十分な情報を持たない者であっても、外部通報という制度を利用して他人や組織に損害を与えようとする行為を、公益通報として正当化しかねません。
② 通報先10か所とした事実認定の根拠が不明確
報告書では、元県民局長が文書を10か所に送付したと断定しています。
しかし、その10か所への送付について、誰の証言があったのか、どのような調査によって確認したのか、具体的な調査結果や証拠が十分に示されていません。
誰が、いつ、どのような方法で送付したのかという事実関係は、公益通報の判断を行ううえで重要な前提です。
それにもかかわらず、10か所に送付したという結論だけが示され、その認定に至った根拠が明確でないので、調査報告書として説明が不十分です。
③ 一般人から知事に文書が届いた経緯を十分に検討していない
今回の問題では、文書が一般人から知事に届けられたという経緯が重要です。
元県民局長が報道機関などに文書を送付した行為と、一般人がその文書を知事に届けた行為は、法律上、別々に評価する必要があります。
ところが、報告書では、この一般人から知事に文書が届いた経緯や、文書がどのように外部へ流出したのかという問題が十分に検討されていません。
その一方で、元県民局長の送付先を外部公益通報として扱い、通報者探索を問題視する結論を導いています。
また、公益通報者保護法11条1項・2項は、条文上、法3条1号及び6条1号に定める内部公益通報に対応するための体制整備義務を定めています。これを根拠として、3号通報に関する今回の探索行為まで直ちに法律違反と評価できるのか、法的な説明が必要です。
法11条の体制整備義務と、外部通報に対する探索行為の違法性は、分けて検討しなければなりません。
さらに、送付先を広く公益通報として認めるような解釈は、外部公益通報の保護範囲を過度に広げ、制度が本来想定していない利用を招くおそれがあります。
④ パワハラを公益通報の対象とする判断が不十分
パワハラという行為や評価そのものが、直ちに公益通報者保護法の対象になるわけではありません。
公益通報の対象となるには、対象法律に定められた犯罪行為などに該当する必要があります。
ところが、報告書では、文書に「傷害罪になりうる」と記載されていることを根拠に、パワハラに関する記載を公益通報の対象として扱っています。
しかし、傷害罪になり得るという文言があるだけで、具体的な行為が犯罪に該当するとはいえません。
どのような行為があり、それがどの犯罪の構成要件に該当する可能性があるのか、さらに通報時点でそれを裏付ける相当の理由があったのかを個別に検討する必要があります。
単に「パワハラがあった」という主張と、犯罪行為を対象とする公益通報は区別すべきです。
⑤ パワハラ認定の基準が明確でない
パワハラの判断では、厚生労働省が示す三つの要素、すなわち、
- 優越的な関係を背景とした言動であること
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
- 労働者の就業環境が害されること
を具体的な事実に照らして検討する必要があります。
しかし、報告書では、どの言動がどの要素に該当するのか、判断基準と事実の対応関係が十分に明確とはいえません。
3.結論
第三者委員会の報告書は、兵庫県文書問題の事実関係を整理し、公益通報者保護法の仕組みや第三者委員会の役割を理解するうえでは有益な資料でした。七項目の調査結果も、今後の議論のたたき台として一定の価値があります。しかし、法的な見解については、重大な疑問が残ります。
特に、通報時点で通報者がどのような根拠を持っていたのかという点を十分に検証せず、委員会自身の後日の調査結果をもって真実相当性を認めている点は、公益通報者保護法の保護要件を広く解釈しすぎていると考えます。
参考 野村修也弁護士のX
報告書による「公益通報」の認定はハードルが低すぎて、組織の破壊、対象者に対する誹謗中傷、業務妨害などといった不正目的での通報でも、簡単に「公益通報」の体裁を整えられてしまう。
野村修也氏のX
また、一般人から知事に文書が届けられた経緯や、内部情報が外部に流出した問題について十分に検証しないまま、通報者探索を法律違反と評価している点にも疑問があります。
このような解釈が定着すれば、外部公益通報の保護範囲が過度に広がり、制度が本来想定していない形で悪用される可能性があります。
公益通報者を保護することは重要ですが、保護のためには法律が定めた要件を満たす必要があります。通報者を保護するという目的を優先するあまり、法律上の要件を緩めたり、後から判明した事実を通報時点の根拠として扱ったりすることは法とは異なる見解とみられる可能性は高いのではないでしょうか。
以上のことから第三者委員会の報告書は、公益通報制度を考えるうえでの資料にはなりますが、その法的見解をそのまま正しいものとして受け入れるべきではないと考えます。