Meiji Seika ファルマの「コスタイベ(ARCT-154)ワクチンの安全性

① 臨床試験での短期安全性

臨床試験による証拠あり

根拠:Nature Communications 2024年5月Safety, immunogenicity and efficacy of the self-amplifying mRNA ARCT-154 COVID-19 vaccine

  • ベトナムで実施された第1・2・3相臨床試験。
  • 17,000人以上が少なくとも1回接種。
  • プラセボ群との比較試験。
  • 主な副反応は注射部位の痛み、圧痛、頭痛、倦怠感、筋肉痛。
  • 大部分は軽度から中等度。
  • 重篤な有害事象はワクチン群118件/8,059人、プラセボ群201件/8,041人。

なお、重篤な有害事象のすべてがワクチンによるものではありません。接種との因果関係があると判定された重篤事象は、ワクチン群10件、プラセボ群5件でした。

評価: 短期的な安全性については、比較的大規模な臨床試験による証拠があります。

② 従来型mRNAワクチンとの比較

日本人対象の第3相試験あり

根拠:Lancet Infectious Diseases 2024年4月Immunogenicity and safety of a booster dose of a self-amplifying RNA COVID-19 vaccine versus BNT162b2

日本国内の828人を対象に実施した無作為化比較試験です。

項目コスタイベファイザー
接種人数420人408人
局所反応95%97%
全身反応66%63%
  • 両群とも概ね良好な忍容性。
  • 免疫応答は非劣性基準を満たした。
  • コスタイベ群で肝機能異常の重篤ではない副反応が1件報告された。
  • 接種との因果関係があると判断された重篤な有害事象は報告されなかった。

評価: 従来型mRNAワクチンと直接比較した日本人の臨床試験が存在します。

ただし、828人の試験だけで、極めてまれな副作用まで比較できるわけではありません。

③ 市販後の安全性

実際の接種者を対象とした調査あり

根拠:Therapeutic Research 2025年9月コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNAワクチンの一般使用成績調査(中間報告)

2025年5月27日時点の中間報告です。

調査結果

1,116

登録者数

708

安全性解析対象

76.6%

副反応発現割合

0件

重篤な副反応

ここで注意したいのは、76.6%という数字です。

これは主に注射部位の痛み、圧痛、倦怠感、頭痛、筋肉痛などを含む副反応の発現割合です。重篤な健康被害が76.6%発生したという意味ではありません。

また、この調査は12週間の観察で、登録者全員が解析対象になったわけではありません。

評価: 市販後調査でも初期段階では新たな安全性上の懸念は確認されていません。ただし、対象者数と観察期間には限界があります。

④ 数年・十数年単位の安全性

長期データには限界あり

ここは、以前の説明を修正します。

実は2025年に、約17,000人を対象とした臨床試験の12か月追跡データをまとめた論文が公表されています。

根拠:Expert Review of Vaccines 2025年Safety profile of self-amplifying mRNA SARS-CoV-2 vaccine ARCT-154 in adults: a pooled phase 1/2/3 randomized clinical study

この研究では、

  • 17,000人以上の臨床試験参加者を解析。
  • 12か月の追跡データを含む安全性評価。
  • 長期追跡で新たな安全性上の懸念は確認されなかった。
  • 心筋炎・心膜炎の報告はなかった。

さらに、日本の第3相試験も接種後361日まで重篤な有害事象などを収集しています。jRCT:ARCT-154第3相試験の登録情報

したがって、正確には次のようになります。

追跡期間エビデンス
数日~数週間臨床試験で評価済み
6か月臨床試験データあり
1年間臨床試験の追跡データあり
数年十分なデータが確立していない
十数年データなし

「長期安全性のデータが全くない」という批判は正しくありません。一方、十数年単位の安全性が確認されたという説明もできません。

⑤ 生物兵器・人体実験との主張

ここは科学的に明確に区別できます。

生物兵器について

Nature Communicationsの論文には、ARCT-154の構造が説明されています。Nature Communications:ARCT-154の構造と作用機序

このワクチンは、ベネズエラ馬脳炎ウイルス由来のRNA複製機構を利用しています。

ただし、ウイルスの構造タンパク質をコードする部分を、新型コロナのスパイクタンパク質をコードする配列に置き換えています。

つまり、

  • ウイルスそのものを接種するものではない。
  • RNAを自己増幅させる仕組みを利用している。
  • ウイルス全体を増殖させるための構造を持たせたものではない。

EMAも、接種後にmRNA、複製酵素、スパイクタンパク質は分解されると説明しています。EMA:コスタイベの作用機序と安全性

生物兵器として開発・使用されているという主張を裏付ける科学的証拠は確認できません。

人体実験について

ここは言葉の定義が重要です。

コスタイベは、実際に人間を対象とした臨床試験を実施しています。したがって、広い意味で「人体を対象とした研究」は行われています。

しかし、臨床試験は人体実験という言葉が連想させるような、無断・非倫理的な実験とは異なります。

ベトナムの第3相試験は倫理審査を受け、参加者の同意を得て実施されたと論文に記載されています。AMO_IERV_A_2487542.docx+1

最終的な整理

論点エビデンスに基づく評価
短期安全性大規模臨床試験で評価済み
従来型mRNAとの比較日本人対象の比較試験あり
市販後安全性調査継続中。初期調査で新たな懸念なし
1年間の安全性追跡データあり
数年・十数年の安全性十分なデータは未確立
生物兵器その主張を支持する科学的証拠なし
非倫理的な人体実験その主張を支持する証拠なし

私が特に強調したいのは、レプリコンワクチンの安全性について科学的に議論する余地はありますが、人体実験や生物兵器という主張は、現在の臨床試験や製剤の構造から裏付けられるものではないということです。

原口氏を含め、ワクチンに疑問を呈すること自体と、根拠のない危険性を事実として断定することは、明確に分けて考える必要があります。

コスタイベ(ARCT-154)のRNAは、なぜ無限に増えないのか

公的審査資料と査読論文を基に整理すると、結論は次のとおりです。

コスタイベのRNAは、細胞内で一時的にコピーされるよう設計されています。しかし、コピーを続ける仕組みは永続せず、RNAや複製酵素も時間とともに減少します。

ただし、「無限に増えない」という説明と、「人体のどこで、どの程度の期間、RNAやタンパク質が残るか」という問題は分けて考える必要があります。

1. そもそも、何が増えるのか

欧州医薬品庁(EMA)の説明によると、コスタイベのRNAには、次の2種類の情報が含まれています。

  • スパイクタンパク質を作るための情報
  • RNAをコピーする酵素(レプリカーゼ)を作るための情報

接種後、細胞がこのRNAを読み取り、レプリカーゼを作ります。レプリカーゼがRNAをコピーし、そのコピーを使ってスパイクタンパク質が作られます。European Medicines Agency (EMA)+1

つまり、RNAが自分の力で増えるのではありません。RNAがコピー用の酵素を作らせ、その酵素がRNAをコピーするという仕組みです。

2. コピーが永遠に続かない根拠

根拠① RNAや複製酵素は体内で減少する

EMAの製品説明では、接種後にワクチン由来のmRNA、レプリカーゼ、スパイクタンパク質は分解され、体外へ除去されると説明されています。European Medicines Agency (EMA)

また、EMAに提出されたリスク管理計画(RMP)には、自己増幅の過程は一時的(transient)であり、感染性粒子を生成しないと記載されています。Risk Management Plan, Version 2.0, Kostaive

これは、自己増幅が無期限に続く仕組みではないという規制当局の評価です。

根拠② マウスを使った2025年の研究

2025年に発表されたARCT-154の研究では、接種後の筋肉やリンパ節で、スパイクタンパク質と複製酵素に関係するタンパク質を調べています。

研究:Biochemistry and Biophysics Reports, 2025

調べたもの研究で確認された結果
接種部位の筋肉のスパイクタンパク質約3日でピーク。その後、速やかに減少
リンパ節のスパイクタンパク質28日後にも検出。44日後には検出されず
複製酵素に関係するタンパク質(nsP1・nsP2・nsP4)筋肉やリンパ節で最長15日程度検出

PubMed+1

この研究から分かるのは、複製に関係するタンパク質の存在は一時的であり、スパイクタンパク質も組織によって減少する時期が異なるということです。

ただし、これはマウスの研究です。人間の体内で同じ期間になると証明したものではありません。また、この研究の著者には製造・開発企業の従業員が含まれています。PubMed

根拠③ 細胞にはRNAを検知する自然免疫機構がある

細胞には、ウイルス由来のRNAなどを検知して反応する自然免疫機構があります。

レプリコンRNAの複製過程で生じるRNAも、こうした反応に関係します。インターフェロンなどの反応は、RNAの複製やタンパク質の産生を抑える方向に働くことがあります。

ただし、これだけを「増殖が止まる直接の証明」とするのは正確ではありません。EMAの審査報告書も、自己複製型mRNAが引き起こすヒト特有の自然免疫反応について、免疫原性・有効性・安全性への影響に未解明な点があると指摘しています。European Medicines Agency (EMA)

3. ウイルスのように感染を広げないのか

コスタイベのRNAは、ウイルスの複製機構を一部利用していますが、感染性ウイルスを作るための構造を持つものではありません。

EMAのリスク管理計画は、自己増幅過程が感染性粒子を生成しないと説明しています。Risk Management Plan, Version 2.0, Kostaive

したがって、次の2つは区別すべきです。

  • 細胞内でRNAをコピーすること: ある。
  • 感染性ウイルスを作って、次々と別の細胞へ感染を広げること: そのような仕組みではない。

4. 現時点で分かっていること・分かっていないこと

論点エビデンスから言えること
RNAの自己増幅実際に起こるよう設計されている
無限に増え続けるかそのような仕組みではない
複製酵素の持続マウス研究では関連タンパク質は最長15日程度検出
スパイクタンパク質の持続マウスのリンパ節では28日後にも検出、44日後には検出されず
感染性ウイルスの生成EMAは生成しないと評価
人間の体内での正確なRNA残存期間マウスの結果だけでは確定できない
長期間の影響継続的な安全性評価が必要

5. 私の結論

「RNAが自己増幅するから、体内で無限に増え続ける」という主張は、科学的な仕組みを正しく説明していません。

一方で、次の点は軽視すべきではありません。

自己増幅する以上、従来型mRNAワクチンとは異なり、細胞内でRNAのコピーが作られます。その結果、抗原タンパク質の産生が従来型と異なる時間・量・場所で起こり得ます。

2025年のマウス研究でも、リンパ節ではスパイクタンパク質が28日後まで検出されています。したがって、「すぐに分解されるから問題ない」と簡単に結論づけることもできません。

なお、今回のマウス研究はタンパク質の検出期間を調べたもので、人間の体内でRNAが何日間コピーされ続けるかを直接測定した研究ではありません。 この点は、現時点のエビデンスの限界として明確にしておく必要があります。

主な一次資料

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