世界の有力なIT企業の多くはなぜユダヤ系なのか

世界の有力なIT企業の多くはなぜユダヤ系なのか
一橋大学大学院経営管理研究科 特任教授 藤田勉
(『資本市場』2019年5月号掲載コラムの要約)

1. 世界から見える日本のIT産業の復活の方程式

2010年代の世界の株式市場を牽引したのは、米国の情報技術(IT、コンテンツ含む)企業である。2018年末時点で世界の時価総額1位はマイクロソフト、2位アップル、3位アマゾン・ドット・コムで、いずれも80兆円前後と日本最大のトヨタ自動車を大きく上回る。日本の代表的IT企業である日立製作所やパナソニックは3兆円弱にとどまる。

先進国のIT企業時価総額上位10社はすべて米国企業だが、そのうち7社は創業者または現経営者がユダヤ人である「ユダヤ系企業」と定義できる。例外はアマゾン、ビザ、マスターカードなど少数だ。これらの企業の共通点は、高度な技術力と独創性の高いビジネスモデルを持つことである。

ユダヤ系IT企業はサービス業が多い。世界ではサムスン電子(韓国)やTSMC(台湾)などアジア系製造業が活躍しているが、日本もソニー、キーエンス、日本電産などメーカーの時価総額が大きい一方、ITサービス企業が世界で活躍するケースはほとんどない。アリババやテンセントも基本的に中国中心だ。つまり、世界的なプラットフォーマーやビッグデータを制する企業のほとんどはユダヤ系企業である。

これらの強みは技術だけでなくビジネスモデルにもある。会員顧客に定期課金するサブスクリプション・モデルにより、景気変動の影響を受けにくく安定成長が可能だ。

一方、日本企業はかつて世界トップクラスの競争力を持っていたが、2018年末時点で世界時価総額100位以内はトヨタ自動車(37位、21.2兆円)のみ。日本のIT企業トップのキーエンスでも世界155位、ソニーは156位だ。電機産業の国際競争力が低下する中、日本のIT産業復活の処方箋を考える必要がある。

2. ユダヤ人の歴史

ユダヤ人が多い業種はかつては金融・不動産・商業だったが、現在はITやメディアに集中する傾向がある。これには歴史が大きく影響している。

一般にユダヤ人とは、ユダヤ教の信者、またはユダヤ人の母から生まれ他宗教の信者でない者を指す。紀元前10世紀のモーセの十戒をルーツとするユダヤ教は現存する最古の宗教で、キリスト教とイスラム教のルーツでもある。イエス・キリストはユダヤ人であり、両教は共通の聖書(旧約)を持つ。

紀元前17世紀頃、ユダヤ人は飢饉でカナンから逃れエジプトのシナイ半島に移り、その後パレスチナ・エジプト・イラクを経てエルサレムを都とした。ダビデがユダヤ民族を統一しイスラエル王国の基礎を築いたが、紀元前586年にバビロニアによってエルサレム神殿が破壊され、ユダヤ人は捕虜として連行された(バビロニア捕囚)。約50年後に解放され独立したが、紀元前63年にローマ帝国の属領となり、二度のユダヤ戦争の後、エルサレム居住を禁止され離散した。

中世以降、欧州でユダヤ人差別が続いた理由として、①キリストを処刑したのはユダヤ人でパレスチナでキリスト教徒が弾圧された、②金融などキリスト教徒が宗教的に従事できない業務につき裕福になり妬みの対象となった、③戒律が厳しく選民思想を持つ、などが挙げられる。

ローマ帝国初期はキリスト教が迫害されたが、392年に国教となり他宗教を禁止した。19世紀から20世紀初めに帝政ロシアやドイツで集団的迫害(ポグロム)が激化し、シオニズム運動が起きユダヤ人がパレスチナに移住。第二次世界大戦中にはヒトラーのユダヤ人絶滅計画で多くのユダヤ人が虐殺された。迫害を受けたユダヤ人は20世紀にイスラエルを建国し、これが中東紛争の一因となった。

3. ユダヤ人が金融に強い理由

中世欧州でローマ教皇の権力が絶頂期にあった頃、ユダヤ人は職業を厳しく制限された。聖書が利息を禁じていたため(異教徒からは可能)、キリスト教徒による利息付き金貸しは1215年の第4回ラテラノ公会議で厳しく禁じられた。同時にユダヤ人は公職やギルドから追放され、大規模土地を必要とする農業や大規模設備を必要とする工業への進出が難しくなった。工業ではダイヤモンド加工など高付加価値産業に特化した。

ユダヤ教徒も同教徒への利息取り立ては禁じられているが、周囲の多くが異教徒のキリスト教徒であるため、ユダヤ教徒がキリスト教徒相手に貸金業を営むことが可能だった。正業につけなくなったユダヤ教徒が貸金業の中心となり、貿易商が金融事業を手掛けマーチャントバンクになる例も多かった。これが現在もユダヤ系金融資本が影響力を持つ理由である。

20世紀まではゴールドマン・サックス、ソロモン・ブラザーズ、リーマン・ブラザーズ、ドレクセル・バーナム(米国)、シュローダー、クラインオート・ベンソン、SGウォーバーグ(英国)などが大手だったが、現在生き残っているのはゴールドマン・サックスのみだ。

4. 科学技術に強いユダヤ人

1990年代のIT革命以降、多くのユダヤ人がIT産業で活躍するようになった。理由の第一は科学技術に秀でていること、第二は世界で最もユダヤ人人口が多いイスラエルの科学技術成長である。

歴代ノーベル賞受賞者の22%が、世界人口のわずか0.2%を占めるユダヤ人である。アルベルト・アインシュタインら著名な物理学者がいる。分野別では経済学賞の40%がユダヤ人で、ポール・サミュエルソン、ミルトン・フリードマン、ポール・クルーグマンらが代表例。「資本論」のカール・マルクスもユダヤ人だ。ユダヤ人は科学技術とビジネスの両方に強い。

世界のユダヤ人の約80%を占めるアシュケナージ系ユダヤ人の知能指数が高いとの研究結果がある。ローマ帝国に滅ぼされ故郷を失ったユダヤ人は欧州を中心に離散し、ドイツ語圏・東欧に定住したのがアシュケナージ、南欧・トルコ・アフリカに移ったのがセファルディムと呼ばれる。

優秀さの理由として、職業選択説(中世に差別され金融などの知的職業に追いやられた)、学習中心説(戒律が厳しく高度な記憶力・識字率を要求され、知識を持つ聖職者が高い地位にあった)、遺伝説(血統が比較的守られ、アシュケナージ系は特定の遺伝病に罹患する傾向があり、インターマリッジが少ない)が挙げられる。いずれの説も多かれ少なかれ影響していると考えられるが、アシュケナージ系の知能指数の高さに関する研究は科学者間でも批判が多い。ただし個人差があるのは当然である。

5. 世界最高水準のイスラエルの科学技術

第二次世界大戦前、大陸欧州のユダヤ人人口は1,000万人強いたが、その3分の2に当たる680万人がホロコーストで殺害された。多くは米国とイスラエルに移住した。

イスラエルの科学技術の強みの第一は、国防軍が開発するサイバー技術である。人口約900万人の小国がエジプト・イラン・サウジアラビアといった大国に囲まれているため、兵器を高度化・無人化し軍事技術で圧倒するしか生き残る道がない。無人偵察機・爆撃機、自動運転ミサイル・戦車などが成果だ。18歳以上の男女に兵役が義務付けられ(男子3年、女子19〜24ヵ月)、最優秀人材はサイバー軍に入隊し、退役後に軍の技術を基にベンチャーを興すことが多い。軍の技術部隊は大学や巨大IT企業と産軍学共同体を形成している。

結果、マイクロプロセッサ、フラッシュメモリー、USBメモリー、サイバーセキュリティ、チャットアプリ(例:LINE)、カプセル型内視鏡など最先端IT技術が生まれ、ほとんどの米国大手IT企業がイスラエルに研究開発センターを設置している。

第二は米国との絆の太さである。世界のユダヤ人約1,450万人のうちイスラエル645万人、米国570万人で全体の84%を占める(2017年)。ユダヤ人は政治力が強く、米国政界の要職の多くを占め、歴代ノーベル賞受賞者のユダヤ人は米国籍が37%と多い。

今や世界のIT技術開発の中心地はシリコンバレーとイスラエルである。スタンフォード大学を核とするシリコンバレーはアップル、フェイスブック、インテルなど高度なサイバー技術と独創的ビジネスモデルの企業が集積する。イスラエルは国防軍由来技術のためB2Bに強いがB2Cは弱く、シリコンバレー企業はグローバルなB2Cに強いという相互補完関係にある。

第三はベンチャー投資の活発さである。1992年のソ連崩壊後、優れた技術と高い教育水準を持つユダヤ人がロシアから多数移住した。政府はヨズマ・キャピタル(VCファンド)を設立して米国から資金を導入し、10を超えるベビーファンドを組成した後に民営化した。こうしてベンチャー投資が根付いた。多くのベンチャーは米国企業に買収されるが、規模の大きい企業は米国に上場する。米国上場のイスラエル企業は94社と、日本の13社を大きく上回る(2019年3月末)。

6. 自動運転のEV時代の到来

2020年代の最大の成長分野は自動運転の電気自動車(EV)になると考えられる。全世界で13億台のガソリン車が稼働し、年間生産は1億台。これらがすべて自動運転EVに置き換わるというスケールの大きな話だ。

イスラエルの強みは軍事技術で培ったサイバー技術と機械工学の融合である。アルファベットやウーバーなどシリコンバレー企業はサイバー技術を持つが機械工学は弱く、それを補うのがイスラエルのメカトロニクス技術、特に先進運転支援システム(ADAS)だ。自動ブレーキやクルーズコントロール(レベル1)から、将来の完全自動運転(レベル5)を目指す。EVの部品点数は約1万点とガソリン車の10分の1になるため、完成車メーカーの収益性が低下する一方、デバイスメーカーの重要性が高まる。

2017年、インテルが世界最大のADAS開発企業モービルアイを買収した。ヘブライ大学教授2名が創業し、単眼カメラによる画像認識技術に強みを持つ。2014年の株式公開時は時価総額1千億円台だったが、買収額は1.7兆円となった。

日本でも村田製作所、日本電産、ルネサスエレクトロニクス、CMOSイメージセンサを持つソニーなど世界的なデバイス企業がある。ただし米国・中国と比べ日本企業のイスラエル進出は出遅れており、今後積極的に最先端技術を活用することが期待される。

7. 日本のIT企業の課題はものづくり重視からの脱却

日本のハイテク産業の大きな問題は、過度にものづくりに依存していることである。しかも中国市場への依存度が高まり、中国経済の変動の影響を受けやすい。最近では得意のはずの製造業でもアジア企業に勝てなくなっている。

世界のIT企業の勝利の方程式は、サブスクリプション・モデルへの移行とクラウドサービスの強化である。しかし世界的に通用するビジネスモデルとプラットフォームを持つのはソニーのゲーム事業くらいしかない。

それでは日本のIT企業がかつての輝きを取り戻すことはできないのか。容易ではないが実現は可能だと考えられる。世界のITビジネスで成功するには高度な技術力に加えて独創的なビジネスモデルの構築が必要で、これを満たしているのがユダヤ系の米国IT企業である。

日本人の自然科学部門のノーベル賞受賞者は増えており(2000年以降11名)、技術力にも課題はあるだろうが、主たる問題は独創的なビジネスモデルの構築であるように思える。かつて日本はビデオテープレコーダ、コンパクトディスク、ミニディスク、DVDレコーダなど多くの画期的商品を世界に送り出した。最近では1994年にデンソーが開発したQRコードが世界で急速に普及し、フィンテックなどで応用されている。独創的なビジネスモデル構築の重要性をリーダーが認識すれば、日本のIT業界復活が期待できるだろう。

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