兵庫県文書問題第三者委員会の問題点

公益通報者保護法違反とした判断の法的問題点

第三者委員会の報告書には、公益通報者保護法の適用要件や県側の対応を評価するうえで、重要な検討不足がある。

特に問題なのは、通報時点の真実相当性、一般人から知事に文書が届けられた経緯、内部情報の流出、通報者探索を禁止する法的根拠などである。

斎藤知事側から見た主な問題点を整理する。

1. 通報時点の「真実相当性」の検証が不十分

公益通報者保護法3条2号・3号の外部通報では、通報対象事実が生じ、または生じようとしていると信じるに足りる相当の理由が原則として必要となる。

重要なのは、後から調査して疑惑が事実だったかどうかではなく、通報した時点で通報者が客観的な根拠を持っていたかという点である。

第三者委員会は、事項4の贈答品問題について間接事実や情報提供者の存在を、事項6の優勝パレード問題について補助金増額や協賛金拠出依頼など複数の事実関係を根拠に、真実相当性を認めている。

しかし、次の検証が必要だった。

  • 情報提供者は具体的に誰なのか。
  • どのような情報を提供したのか。
  • その情報を通報者はいつ把握したのか。
  • 通報時点で、裏付けとなる資料や信用性の高い証言を持っていたのか。

第三者委員会が後日の調査で把握した事実を、通報者も当時把握していたかのように扱うことはできない。

後日の調査で疑惑を裏付ける事実が判明したことと、通報時点で相当の理由があったことは別問題である。

この区別が十分に検証されていない点は、報告書の大きな問題である。

2. 一般人から知事に届けられた経緯を十分に考慮していない

3月文書は、元県民局長が県警、国会議員、県議会議員、報道機関など10か所に配布したものである。

一方、斎藤知事は3月20日に一般人から文書の存在と内容を知らされている。

この2つの行為は明確に区別すべきである。

  • 元県民局長から報道機関等への配布:公益通報者保護法3条3号の外部通報に該当するかが問題。
  • 一般人から知事への提供:元県民局長による公益通報ではなく、一般人が流通していた文書を知事に届けた行為。

一般人から知事に届けられた文書の受領を、公益通報の受理と同じように扱うことはできない。

第三者委員会は、元県民局長による外部通報の適法性と、一般人から知事に文書が届けられた経緯を明確に区別して検討すべきだった。

3. 市中流出した内部文書そのものの問題を十分に検証していない

3月文書は、県内部の情報を含む文書であり、庁外に持ち出され、報道機関や議員などに配布され、さらに一般人にも渡っていた。

県側から見れば、これは公益通報の問題とは別に、内部情報の管理や流出経路の問題である。

本来、次の点も検証すべきだった。

  • 職務上知り得た内部情報を外部に配布したことの適法性。
  • 内部情報が外部に流出した経緯。
  • 一般人にまで文書が渡った経路。
  • 文書に記載された関係者の名誉や信用への影響。
  • 県の情報管理体制に問題がなかったのか。

第三者委員会は、通報者探索や懲戒処分の問題を中心に評価しているが、内部情報が外部に持ち出され、一般人にまで流通したこと自体の問題について、十分な検証がなされていない。

公益通報という主張があれば、内部情報の流出に関する問題がなくなるわけではない。

4. 通報者探索禁止の法的根拠と適用範囲に問題がある

2024年3月当時の公益通報者保護法には、通報者探索を直接禁止する明文規定はなかった。

第三者委員会は、公益通報者保護法11条の体制整備義務と、それに基づく法定指針を根拠として、通報者探索を禁止する措置に違反したと判断している。

しかし、ここには重要な問題がある。

  • そもそも3月文書が公益通報に該当するのか。
  • 一般人から知事に届けられた経緯を考慮したのか。
  • 公益通報に該当するかという前提を十分に検証したのか。
  • 法律上の体制整備義務と、個別の探索行為の違法性をどのように結び付けたのか。

公益通報に該当するかという前提の検証が不十分なまま、指針上の探索防止措置を根拠に県側の調査を違法と評価したことには、法的な疑問が残る。

なお、2025年の法改正で通報者探索の禁止は法律に明文化されたが、2024年当時の制度と改正後の制度は区別して考える必要がある。

5. パワハラを公益通報の対象とした判断が不十分

単なるパワハラや不適切な言動は、それだけで公益通報者保護法の対象になるわけではない。

同法の対象となるには、原則として対象法律に規定された犯罪行為や過料の対象となる事実などが必要である。

第三者委員会は、パワハラについて暴行罪や傷害罪などを構成する可能性を理由に、通報対象事実に該当し得ると判断している。

しかし、犯罪に該当する可能性があるという抽象的な説明だけでは不十分である。

通報文書に記載された具体的な行為が、どのような理由で犯罪に該当し得るのか、さらに通報時点でそれを信じる相当の理由があったのかを検証する必要がある。

単なるパワハラと犯罪に該当し得る行為を混同してはならない。

6. 外部通報先と通報目的の検証が不十分

3月文書は、県警、国会議員、県議会議員、報道機関など10か所に匿名で配布されている。

しかし、報道機関などへの外部通報には、公益通報者保護法3条3号の要件を満たす必要がある。

本来、次の点を個別に検証すべきだった。

  • なぜその配付先を選んだのか。
  • それぞれの配付先に通報する必要性があったのか。
  • 各通報先について法律上の要件を満たしていたのか。
  • 匿名で複数の機関に配布する必要性があったのか。

配付先が10か所に限定されていたという事実だけで、通報の適法性や目的の正当性を判断することはできない。

結論:第三者委員会の判断に対する根本的な疑問

第三者委員会の報告書には、公益通報者保護法の適用要件について、次のような問題がある。

  1. 通報時点の真実相当性:後日の調査結果と、通報者が当時持っていた客観的根拠を明確に区別できていない。
  2. 一般人から知事への文書提供:元県民局長による外部通報と、一般人が知事に文書を届けた行為を十分に区別していない。
  3. 内部情報の流出:文書が庁外に持ち出され、一般人にまで流通したこと自体の情報管理上の問題を十分に検証していない。
  4. 通報者探索禁止:2024年当時の法律と指針の関係、個別の探索行為に対する違法性の根拠が明確でない。
  5. パワハラの対象該当性:単なるパワハラと犯罪に該当し得る具体的な行為の区別が不十分。
  6. 外部通報の要件:配付先ごとの必要性や法的要件の検証が不十分。

最大の問題は、公益通報者保護という観点を優先するあまり、通報時点の客観的根拠、文書が一般人から知事に届けられた経緯、内部情報の流出という問題を十分に検証せず、県側の対応を違法と結論づけていることである。

公益通報者保護法は、疑惑を告発すれば無条件に通報者を保護する法律ではない。通報対象事実に該当すること、通報先に応じた保護要件を満たすこと、通報時点で相当の理由が存在することなど、法律上の要件を満たす必要がある。

第三者委員会は、これらの要件を一つずつ厳密に検証すべきだった。

通報者を保護することと、県側の対応を違法と認定することは別問題である。その法的な検証が不十分なまま導かれた違法認定には、重大な疑問が残る。

参照資料

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