2024年3月の元県民局長の告発文書は公益通報なのか?

■はじめに
兵庫県文書問題第三者委員会(以下第三者委員会)は、2024年3月の告発文について「具体的根拠の存在」や「通報ルート」などの要件を問わず、事後調査による「一部の真実相当性」をもって、公益通報とした。果たして、その判定が正しいのか?法令と突き合わせをしながら検証する。

■経緯(2024年3月~4月初頭) 
告発文書の提出と県側の調査 Wikipedia

■第三者委員会の評価と法的な面での反論

1. 第三者委員会による「公益通報」認定の根拠

第三者委員会は、2024年3月12日の文書配布について、以下の論理で「公益通報」であると認定した。

第三者委員会の報告YouTube要約

「文書問題に関する第三者調査委員会」調査報告書

兵庫県・第三者委が報告書、斎藤知事の告発対応「違法」

  • 結果論による真実相当性:後日の調査により、コーヒーメーカーの受領やパレード寄付金に関連した特定企業への利益供与の2項目の事実が確認され、これら一連の内容が含まれていた以上、3月時点においても「真実であると信じるに足りる相当な理由(真実相当性)」があったとみなすべきであるとした。
  • 保護理念の優先: 報告書131ページで「問題となる犯罪行為等の構成要件のすべてを伝えていなければ公益通報に該当しないというのは社会通念上相当ではない。構成要件の一部を主張していればよいと解するのが相当である。」とした。
    すなわち、一般の通報者に法的な完璧さを求めるのは社会通念上ありえないとし、内容に一定の真実相当性(信じるに足りる理由)が認められるのであれば、形式的な不備や細部の欠落があっても公益通報としての保護対象になり得るとし、書面の不備や通報方法の不備は問わないとした。

2. 公益通報者保護法(第三条)との決定的な乖離

法律の条文と照らし合わせると、第三者委員会の判断は「法を無視した解釈」と言わざるを得ません。
公益通報者保護法

2024年8月7日に行われた、兵庫県の斎藤元彦知事(当時)による記者会見(YouTube要約)

プロセス

(1)法が定めるプロセスを無視

公益通報者保護法 には、保護されるべき通報の要件が明記されている。

  • 外部通報の定義:法第二条に厳格に定められている「被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」、すなわち「報道機関、消費者団体、事業者団体、労働組合 など」に送付する必要がある。
    県民局長が作成した文書は、この要件外の一般人から届けられたため、定義からはずれ、外部通報(3号)に相当しない。
    外部通報先
  • 署名の必要性:法第三条「イ氏名又は名称及び住所又は居所」の記載: 3月時点の文書は「匿名」であり、要件を充足できてない。
  • 具体的根拠の必要性:外部通報三号には、法第三条「ロ当該通報対象事実の内容 ハ当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する理由」の記載から、なぜそれが法令違反なのかという具体的根拠の記載が必要とされている。
    第三者委員会による「構成要件の一部を充足すれば足りる」(証拠が不十分でも一部の真実があれば要件を満たす)との解釈は内部通報においては保護される可能性はある。
    しかし、外部通報においては、真実相当性として「客観的な証拠」の厳格な提示が必要で、当該解釈のみでは法定の要件を充足しているとは判断できない。

公益通報者保護法

(定義)
第二条 この法律において「公益通報」とは、次の各号に掲げる者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、当該各号に定める事業者(法人その他の団体及び事業を行う個人をいう。以下同じ。)(以下「役務提供先」という。)又は当該役務提供先の事業;に従事する場合におけるその役員(法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法令(法律及び法律に基づく命令をいう。以下同じ。)の規定に基づき法人の経営に従事している者(会計監査人を除く。)をいう。以下同じ。)、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該役務提供先若しくは当該役務提供先があらかじめ定めた者(以下「役務提供先等」という。)、当該通報対象事実について処分(命令、取消しその他公権力の行使に当たる行為をいう。以下同じ。)若しくは勧告等(勧告その他処分に当たらない行為をいう。以下同じ。)をする権限を有する行政機関若しくは当該行政機関があらかじめ定めた者(次条第二号及び第六条第二号において「行政機関等」という。)又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(当該通報対象事実により被害を受け又は受けるおそれがある者を含み、当該役務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者を除く。次条第三号及び第六条第三号において同じ。)に通報することをいう。
(解雇の無効)
第三条 労働者である公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に定める事業者(当該労働者を自ら使用するものに限る。第九条において同じ。)が行った解雇は、無効とする。
一 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合 当該役務提供先等に対する公益通報
二 通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合又は通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると思料し、かつ、次に掲げる事項を記載した書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。次号ホにおいて同じ。)を提出する場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等に対する公益通報
イ 公益通報者の氏名又は名称及び住所又は居所
ロ 当該通報対象事実の内容
ハ 当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する理由
ニ 当該通報対象事実について法令に基づく措置その他適当な措置がとられるべきと思料する理由
三 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報
イ 前二号に定める公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ロ 第一号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ハ 第一号に定める公益通報をすれば、役務提供先が、当該公益通報者について知り得た事項を、当該公益通報者を特定させるものであることを知りながら、正当な理由がなくて漏らすと信ずるに足りる相当の理由がある場合
ニ 役務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
ホ 書面により第一号に定める公益通報をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該役務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該役務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
ヘ 個人の生命若しくは身体に対する危害又は個人(事業を行う場合におけるものを除く。以下このヘにおいて同じ。)の財産に対する損害(回復することができない損害又は著しく多数の個人における多額の損害であって、通報対象事実を直接の原因とするものに限る。第六条第二号ロ及び第三号ロにおいて同じ。)が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

(2)消費者庁の見解との矛盾

一方、制度の設計者である消費者庁は、通報を受ける側の「認識」を重視する。

消費者庁の見解: 「公益通報だとして聞いたのであれば扱わなければならないが、公益通報であることを聞かなかったのであれば、当該内容が公益通報だと知らないことになるので、配慮はできない

つまり、外部通報先からの通報で、様式(氏名・住所の記載、思料する理由)を整えて意思表示をしない限り、受け取った側には「公益通報として扱う義務」は発生しません。

■結論:第三者委員会の見解がいかに非現実的か

第三者委員会は公益通報者保護法の外部通報の「告発の定義(要件)」をほぼ無視し、後出しの「一部の真実相当性」だけで知事を断罪しました。これは、プロセスを重視する法治主義の根幹を揺るがす極めて危険な拡大解釈である。

法は「要件(プロセス)」を重んじるからこそ機能する。結果が正しければ要件を無視して良いという第三者委員会のロジックは、もはや「法」ではなく「世論に迎合した最初から結果ありきの裁き」に過ぎない。

■補則:各種反論に対する回答例

  • 告発文書には、知事や副知事ついても書かれていたのに、公益通報に相当するかどうかの判定に第三者の見解を入れなかった。これは、公益通報違反にあたるのではないか?
    【回答】
    法律には公益通報に相当するかどうかを第三者を入れて判断せよとは書かれてない。県職員の判断をもとに知事が最終決断したに過ぎず、違法性はない。
  • 告発者捜しは違法だ
    【回答】
    当該文書は公益通報の要件を満たしてない上に実名や企業名に対する誹謗中傷が含まれており、そのまま放置すれば多方面に著しい不利益を及ぼすことが予見されたため、看過できないと判断。調査の結果、県民局長による作成の疑いが浮上したため、機密情報漏洩の疑いに基づき面談を実施したものであり、一連の対応に違法性はない。
  • パソコンを押収したのは違法だ
    【回答】
    県民局長が機密情報漏洩を認めたため公用パソコンを押収し、調査した。あくまで、機密情報漏洩の確認調査なので違法性はない。
    また、大森弁護士によると『公益通報者保護法に基づく指針』には以下の方針が書かれているということです。
    〇対応は通報に関する者を除外
    〇通報者の探索を防ぐ
    〇公益通報者を保護する体制の整備
    〇不利益な取り扱いをした場合回復措置
    指針はあくまでもガイドラインとなっていて今回の一連の騒動も、ガイドライン違反は起きているが、法律違反だとは言い切れないため専門家の間でも意見が分かれているといいます。
    ※ガイドラインは勿論、「公益通報」と認められた場合のみに対する指針です。
    “ガイドライン違反”だが”法律違反”ではない…?斎藤知事『文書問題』これまでの経緯 専門家も意見が分かれる『公益通報』への解釈 ルールの改定が今必要?
  • 兵庫県が依頼した「第三者委員会」の指摘(知事側の対応は公益通報違反で不当)をなぜ受け入れない?
    【回答】
    兵庫県が依頼したのは確かだが、その結果を受けるかどうかは法令に従って判断する。
    県は、一連の対応は適切であると評価し、第三者委員会の指摘を受け入れてません。
  • 無記名でも公益通報として保護される可能性があるのでは?
    【回答】
    無記名でも具体的な証拠があれば、保護される可能性はあるが、3月12日の文書は無記名の上、証拠(思料)もないため、公益通報に相当するとは判断できない。
  • 有識者からも同様の指摘がなされているのか?
    【回答】
    野村修也中央大学大学院教授 が第三者委員会に対して苦言を呈している。
    —————
    報告書による「公益通報」の認定はハードルが低すぎて、組織の破壊、対象者に対する誹謗中傷、業務妨害などといった不正目的での通報でも、簡単に「公益通報」の体裁を整えられてしまう。
    野村修也氏のX
    —————
    他法律事務所のホームページ

    GVA法律事務所
    (ウ) その他の外部通報先への公益通報(3号通報)
     報道機関や消費者団体など、被害拡大防止のために必要と認められる第三者への通報です。
    通報対象事実が生じ又はまさに生じようとしていると「信ずるに足りる相当の理由」があること
    弁護士の部屋
    外部通報における虚偽通報の取扱い

注釈

  • この文書はGeminiの協力の元で作成した。
  • パワハラに関する事象は、公益通報外のため今回の内容には含まれない。

コメント

“2024年3月の元県民局長の告発文書は公益通報なのか?” への1件のフィードバック

  1. […] 上記の理由から法的な解釈では、外部公益文書して保護されることはないでしょう。詳細の説明はこちらに公益通報者保護法 […]

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